ヨシオ弦楽器 毛替え工程のご紹介


当店の毛替えは他社と比べて非常にリーズナブルな価格設定となっております。
お値段の安さに驚かれる方・不安になる方も多々いらっしゃるかと思います。
ですので、品質や技術に関して一切の妥協が無いことをご理解頂くため、今回は特別に、当店にて行っている毛替えの方法を、イラストを交えつつご紹介させて頂きたいと思います!
説明上、専門用語が多く出て参りますので、弓に関してのパーツの名称等をあまりご存じでないという方は、以下の文章をご覧になる前に、是非一度こちらの画像にお目通し頂ければと思います。







まず始めに、毛替えは大まかに区分して、おおよそ3つの工程に分けられます。
一つ目は、張られている毛を取り外し、クリーニングなどを行う下準備の工程。
二つ目は、実際にくさびを作り、毛を弓に取り付ける工程。
そして最後が、毛を水に濡らして強く張り、ドライヤーで乾かす工程です。
おそらくどの工房でも、このような工程を踏まえて毛替えを行っているかと思いますが、その細かな内容・工夫などは、職人や工房ごとに非常に多岐に渡ります。
今回は、そのような当店の工房独自の工夫などに関しても、出来る限り分かりやすくお伝えできればと思っております!
① 弓の状態確認
まずは、毛を外す前の段階で、弓の状態を予め確認しておきます。
この際に曲がりやねじれ、スティックのダメージなどの確認を行い、毛替えを行う際の左右のテンションの目安にします。
② スティックの汚れを落とす
松脂や皮脂汚れを落とすのに非常に効果的な、キシレンと呼ばれる溶剤をティッシュなどに染み込ませ、スティック部分の拭き掃除を行います。

③ スティック以外の部分の汚れを落とす
クリーニングのご依頼を頂いている場合は、この段階でスティック以外の部分の汚れ落としを行います。
コンパウンドやニコなどでチップ部分を清掃したり、銀線やフェルールなどの金属部分にはピカールを使用し、ティッシュやクロスなどで綺麗に磨き上げます。

④ 弓から毛束を外す
まず、ヘッドのくさびを外して、スティックから毛束を抜き取ります。
次に、毛の根元付近を掴んで手で千切り取り、フェルールのくさび部分に余裕を持たせ、フェルールを外します。
それでも取れない場合は、トング型治具を使用するか、革で保護しながらペンチやバイスを使用して取り外すことが多いです。
そして最後にフロッグ部のくさびを外し、毛束を完全に抜き取ります。

⑤ フロッグのチェック
フロッグに大きなダメージなどが無いかなどを確認するほか、フェルールのくさびが入る部分(以下、つめと呼称します)が長いか、形が歪なようであれば、ナイフなどで修正を行います。

⑥ 毛量を決める
ゲージを使用し、毛の根元寄りで毛量を量ります。
毛量の少ない方が演奏する際の音色・操作性などは向上するため、お客様のご要望に合わせて毛量を調整し、ダメージを負っている毛などを弾いて選定します。

⑦ 毛を結ぶ
口に片方の糸の端を咥え、水で糸全体を濡らします。
次に、【図1】のように、左手の親指のみを少し突き出す形にし、糸を挟むように持った後、突き出た部分に糸を巻いて行きます。




 
次に、巻いた部分を軽くつまみ、糸にゆとりを持たせます。
糸を親指に巻きつけた状態のまま、【図2】のように、先ほど糸をゆるめて作った穴の手前側に糸の端(B)を通します。
その後、通した方の糸(B)をゆっくりと引っ張り、からまないよう気を付けながら親指から糸全体を外したのち、緩く糸を結びます。





次に、糸の結び目が交差していないことを確認し、再度きつく糸を結びます。
この際、【図2】のA側を口で咥えたまま、B側を手で強く引き、固く結ぶことが大切です。
この作業を、フロッグ側では二回、ヘッド側では後々毛を濡らした際に一回行います。

⑧ 毛を切る
モルティスの穴に毛束を添わせ、長さを確認した後、【図3】のように、穴と同じ程度の長さまで毛束の先をカットします。 
モルティスに毛を嵌めてみて、フロッグを逆さまにしても落ちないくらいぴったりと嵌まる程度の長さが最も良い長さです。





⑨ 毛先を固定する
瞬間接着剤を使用し、毛束内部まで接着剤が浸透するよう塗布します。
この際、結び目の部分までしっかりと固定することが重要です。
全体に接着剤が行き渡ったら、半田ごての側面を利用し、はたくように熱して固めます。
あまり半田ごてで焼きすぎてしまうと、表面の接着剤が焦げ付き剥がれ落ちてしまい、強度が落ちてしまうので注意が必要です。

⑩ くさび製作
職人ごとに木取りが異なるので、ここではあくまで一例として、毛の当たる面とその反対側の面(くさびの固定されている面)を木口面として記します。

1. 後々の作業をし易くするため、木口面を綺麗に整えます。
2. くさび全体の厚みを出し、高さを確定します(【図4】を参考に)。
3. 毛が当たる方の木口面(奥側)の角度を出します。
4. 側面をモルティスに合わせ成形します。
5. 先ほどとは反対の木口面(手前側)の長さを整えます。





また、側面の形を作る際は、モルティスの壁面に極力沿った形にします。
最後に、くさびの裏側に彫刻刀で毛の通り道を掘り込みます。
また、ヘッドのくさびに関しては、毛の触れる側面上部は隙間なくしっかり付いていなくてはなりませんが、【図6】のように、側面下部に関してはある程度隙間が空いていても問題ありません。
当店では、この部分に意図的に少し隙間を開け、次回の毛替えの際にくさびを取り外し易いようにしておく職人も居ます。





また、モルティスが非常に浅く、薄くせざるを得ない場合は別ですが、基本的にくさびは厚みがあればあるほど引っ掛かり代が大きくなり、モルティスから抜けにくくなるため、可能な限り厚く製作する方が良いとされています。





⑪ くさびを入れる
先ほど接着剤で固定した毛先の更に上の方まで、たっぷりと松脂を塗布します。
この松脂は強い摩擦を生じさせ、モルティスからくさびを抜けにくくするためのストッパーの役割を担っているので、接地面にしっかりと塗布することが大切です。
また、この際使用する松脂は、予め乳鉢で細かく砕いて粉末にしておきます。
次に、毛先をモルティスに収めます。
この時、毛先が固く収まり辛いことが多いので、【図7】のように、割り箸の先などを結び目に添えて押し込みながら入れると入れ易いです。





毛束が上手く収納出来たら、【図8】のように黒檀の小さな棒と金槌を使用し、くさびを叩き入れて詰めて行きます。
この際、くさびは必ず奥側から詰めて行くことが大切です。
奥面側がある程度モルティスに入ったら、次に毛束を左手で引っ張りながら、手前側を徐々に押し込んで行きます。
こうすることで、モルティス内に余分な毛が残ることを防ぎ、毛を張り終えた後の長さに不備を起こり辛くすることが出来ます。
また、この叩き入れる際に、くさびの形がモルティスに比べてあまりに大きすぎると、モルティスが圧に堪えられず割れてしまい、フロッグの表面まで亀裂が入ってしまうことがあるので、充分に気を付けながら作業を行います。





⑫ スライドを入れる
くさびが入ったら、先程と同様に毛を引っ張りながら、スライドを入れて行きます。
毛を引っ張る理由はくさびの際と同じですが、スライドに関しては、毛を引っ張ることで毛の厚みが多少抑えられ、スライドが若干入れ易くなるというメリットも存在します。
そのほか、スライド自体の滑りが悪く入れ辛い時は、滑りを良くするため、【図9】のように側面にロウなどを塗布します。
ロウを塗っても改善されないようであれば、側面を鉋やヤスリなどで軽く削り慣らすと大幅に入れ易くなることが多いです。





⑬ フェルールのくさび製作
当店のフェルールのくさびは、毛を張った際に、左右両端の毛量が少々多くなるような形状を採用しています。
この形状は、それぞれの楽器のプレイングサイドの毛量をカバーする目的で考案されており、片側だけの極端な毛の摩耗による演奏時の弾き辛さを解消するほか、通常の形状よりも毛の持ちを良くする効果があります。
また、使用するくさび材は、楽弓にもよるが、厚みおおよそ2~5mm、幅おおよそ10~20mmほどの楓材を用意し、鉋で予め片側を完全な平面にしておきます。

1. くさび材の厚みを出します
2. 側面の形状をおおまかに決定します
3. つめの長さに合うよう、くさびの長さを詰めます
4. 先端を三角形にし、くさびをよりつめの形状にフィットさせます
5. 鋸でカットします
6. ボンドを使用し挿入と接着を行います
7. 毛を引っ張り、フロッグ内の残り毛を外に出します

まず、出来るだけなだらかにくさび材の厚みを出します。
【図10】を見ても分かる通り、この厚みの角度をなだらかにする事で、フェルールのなかにくさびがぴったりと収まっている範囲を広げ、より外れにくくなるという利点があります。



次に、側面の形とサイズを整えて行く。
後から長さを詰める際にある程度修正が効くので、この時点では幅のサイズは多少小さすぎる位でも問題ありません。
次に、実際にフェルールにくさび材を試し入れし、先端を削って長さを調節します。
この際、フェルールに対してあまりにくさび材の収まりが悪い場合は、フロッグのつめ部分に問題があることが多いので、一旦つめの修正行ってから作業を再開すると作業がスムーズに進みます。
そのほか、【図11】を見ると分かる通り、つめの角度が鈍角であればあるほどくさびの収まりは悪く、また抜けやすく短いくさびとなってしまうので、適宜調整を行います。





ある程度長さの目処が立ったら、次は先端部分の形を整えます。
【図12】では、便宜上、予め平面を出してある側をA面、なだらかに厚みを出した面をB面としてご紹介させて頂きます。





現在は【図12】のうち3工程目にあたるので、図と沿った形になるよう、A面の先端を鑿で斜めに削ぎ落とします。
この際、B面との境目を完全な0距離にすることで、毛の流れを遮ることなくフェルールにくさびを収めることが出来、毛を痛めるリスクも最小に抑えられます。
次に、【図13】のように、A面の側面を斜めに削ります。
この加工により、毛を張った際に、くさびの両端に小さな毛の溜まり場を設けることが出来ます。





また、この際、B面の側面を削った時のようにかなり角度を付けるのではなく、あくまでもA面に平行寄りの角度を保ちつつ削ぎ落とすことが非常に重要です。
分かり辛い場合は【図14】をご覧下さい。





ある程度くさびの形が完成したら、もう一度しっかりと毛を整えてくさび材の試し入れをし、B面とフェルールとの境に、目印となる線をくじりで引きます。
印を付けたらくさび材を外し、印よりも多少余裕を残した長さまで鋸で切断し、A面を上にして平鑿で切り口を整えます。
くさびが完成したら、B面に木工用ボンドを点付けし、挿入します。
この際、本挿入前にもう一度毛を均等に整えておくことが非常に重要になります。
また、くさびを挿入する際は【図15】のように、左手でフロッグ全体を包み込むように持ち、更に左手親指で毛を軽く押さえ、【図16】のように右手人差し指と中指で毛を挟んだ上で、右手全体で毛を引っ張り、それと同時に右手親指と人差し指でくさびを挿入する非常に入れ易いです。








また、くさびを入れる際は【図17】のように、短くなったフェルールのくさび材の端切れなどで押し込むと非常に作業し易いです。
8割ほどくさびを入れた段階で、毛の均一さのチェックを再度行います。
ライトに毛を透かしながら、両端以外の毛束が均一な色味になっていることを確認すると、より均一に毛を張ることが出来ます。





挿入が完了したら、【図18】のように毛束を引っ張ってフロッグ内に残っている毛を外に出し、もしもくさびが毛に沿って出てくるようであれば、再度きつく挿入します。





引っ張ってもくさびと毛が出てこなくなったら、毛を分けるように持ち、左右に何度か引っ張り、毛の流れを真っ直ぐになるよう修正します。
現時点で、毛束とくさびが【図19】のような形状になっているのが理想です。
また、くさび類の製作は、全て毛を濡らす前に行っておくことが大切です。





⑭ 毛を張る
まず、当店オリジナルの弓固定器具に、弓をセットします。
その後、毛を櫛で丁寧に梳かし、湿度の確認を行います。
この湿度によって、毛を張る際の長さが変動することが多いので、予め工房内の標準湿度を把握しておくことが大切です。
当店では、湿気過多な時期は次に来る乾燥期のことを見越して少々長めに張り、逆に乾燥期には少々短めに張ることが多いです。
また、弓の反りによっても毛を張る長さは変動するため、毛を張る前にしっかりと弓の反り・曲がりのチェックを行っておくことも非常に需要です。
そのほか、毛があまりに短すぎる状態が長く続くと、スティックに常時圧力が掛かってしまい、竿部分の割れや折れ、また変形の原因となってしまうので、毛の短さには注意が必要です。
また、逆に毛が長すぎる場合のデメリットとしては、毛を張った時のフロッグの位置がボタン寄りに大きくずれてしまい、演奏の際にスティックの部分を持つこととなってしまうため、スティックの摩耗の原因となるため、こちらも十分に注意します。



また、張り終えた後の毛の長さは、弓を完全に緩め、且つフロッグがヘッド側に最大限寄っている状態で、毛がスティックに緩く被さっている位が良いとされています。
しかしこれはあくまで標準的な湿度・標準的な状態の弓での場合となるため、このような被さり具合で無いからといって、良くない毛替えであるということではございません。
湿度及び毛の種類・弓の状態などによって毛の被さり方は大きく変化するため、それぞれの弓に合った長さで張ることが何より重要なポイントとなります。
また、毛替え後に一度でも演奏した弓は、毛の種類によっては毛の長さが大きく変動するため、あくまでも毛替え直後の目安として考えて頂ければと思います。
【図21】は、標準的な弓の場合の、毛の長さのおおまかなイメージ図となります。





湿度を確認したら、次は水で毛を数秒濡らします。
この時、フェルールのくさび部分に水がかかってしまうと、接着剤が緩みくさびが取れ易くなるため、極力濡らさないよう指などで押さえてカバーします。





毛にムラなく水分が行き渡っていることを確認し、水を切ったら、スティックにフロッグを取り付け、フロッグをヘッド側に最大限寄せた状態にし、固定器具にセットします。
毛を濡らしてからは、毛内の水分残量が非常に重要になってくるので、全ての作業を手早く行うことが重要です。
もたついていると、毛が乾き始めてしまい、毛を結んだ際に設定していた長さから変動してしまうことがあるので、充分に注意することが大切です。
また、ヘッド側も結び方に変化はないので、気に掛かる方は再度⑧をご覧下さい。
弓ががたつかず、しっかりと固定器具に留まっていることを確認したら、【図23】のように毛を梳きます。
まずは左手に軽く毛束を持ち、フェルール部分の毛の根元に櫛を添え、右手の人差し指と中指で毛を挟み、水を切りながら真っ直ぐ一気に梳かします。



右手で引き寄せたすぐ後に、【図24】のように左手の人差し指と親指を使い、毛束を帯状のままキープし引き寄せます。
また、当店の職人の中には、この際に人差し指の第1関節・第2関節の間の中節に毛束を全て乗せて引き寄せることを重要視している者も居ます。
こうすることで、毛束の中央のみがたるむことなく、毛を張った後のばらつきを防止し、均一なパワーバランスで毛を張ることが出来るとのことです。





しかし、VcやCbなど、毛幅の広い弓に関してはこの限りではないのに加え、関節部分に毛束を乗せることを好む人もいるので、張り終えた後の弓をその都度しっかりと考察し、自分の体や癖に合ったやり方を見つけることが重要となります。
櫛を通して毛を手前まで引き寄せたら、弓のスティックの長さ、そしてモルティスの位置を確認します。
スティックの長さ以上に毛束がはみ出ていることが多いので、その部分まで真っ直ぐ左手を引き、位置をキープします。
この段階で、右手と櫛を毛束から外すと、作業がスムーズに進みます。



左手の位置をキープしたら、その状態のまま糸を取り、【図26】のように親指と毛束を一緒に巻き込むように結び目を作ります。





糸を巻いたら、右手を使い、結び目だけを左手の親指から外し、【図27】のように、糸を毛束の位置までずらします。
結び目をずらしたら、毛の長さを決めます。
【図28】のようにヘッドに毛を当て、その状態で【図29】のように、ヘッドのくさびをモルティスの上辺に当てます。









次に、【図30】のように、くさびの厚みと同じ位の場所に結び目を移動させます。





また、この結び目の位置は、その時々の湿度により微調整することが大切です。
毛を長く張りたいときは左に、短く張りたいときは右にずらし、毛の長さを決めます。
次に、毛束を決して崩さず、また結び目の位置が僅かでもずれることのないよう十分に注意しながら、【図31】のように毛束を右手に持ち換えます。





次に、左手の親指と人差し指で結び目をぎゅっと挟みます。
この際、先程と同じように、少しでも毛束が崩れたり、結び目がずれたりしないよう十分に注意することが大切です。
その状態で【図32】の糸端Aを口に咥え、糸端Bを手で持ち、一気に力を加えて上下に引っ張ることで毛束を結びます。





この際、毛束を横に立て、垂直に毛を引っ張らないと、力を加えた際に結び目が歪んでしまい、毛を張った後の毛束のテンションに大きな差が出てしまうため、注意が必要です。
結び終わったら、フロッグのモルティスに詰めた毛束よりもやや短めに毛をカットし、同じように瞬間接着剤で固めます。
この際、接着剤を付けすぎてしまうと、接着剤が毛を伝い、表面に露出する部分の毛にまで染みて固まってしまい、毛が綺麗に張れなくなってしまうので、分量には十分に注意します。
また、同様の事故を防ぐために、ヘッド側の毛束に接着剤を付ける際は、毛先を下にし、毛束部分に接着剤が垂れないようにする職人も居ます。
固定し終わったら松脂を付け、先程の【図23】の要領で、結んだ毛にもう一度櫛を通し、【図33】のように右手で毛先を持ちます。





その後、【図34】のように、その毛束を180°ひっくり返して左手に持ち換えます。





この際、毛束を一切崩すことなく慎重に持ち換えることが重要となります。
毛束を持ち換えたら、左手はその状態をキープしたまま、右手で櫛を外し、またそのままスティックからフロッグも外します。
フロッグを外したら、毛先をモルティスに入れ、くさびを詰めて行きます。
まず、毛束の先を、結び目がすっぽり隠れる程の深さまでモルティスに入れます。




この時、毛束を手前側に引くと左側の毛の張りが強くなり【図36】、奥側に傾けると、右側の張りが強くなります【図37】。







また、この毛のテンションの調整法に関しては、あまり極端に行うと毛のばらつきや長さの差の原因となるため、毛を結ぶ際に結び目の角度である程度調整しておき、くさびを入れる際はあくまでも微調整程度に留めておくことが多いです。
毛束を入れたら、その上からヘッドのくさびを押し当て、円柱の棒を使って一気にぐっと押し込みます。
この際、くさびの頭側(奥側の毛の当たる部分)を最初に押し込むことが大切です。





これは、ヘッドのくさびはモルティスに入りきらなかった部分は削ってしまうが、頭側を削ってしまい、くさびそのものの厚みが変わってしまうと、モルティスに収まる毛の長さが変わり、張り終えた後に毛が長くなってしまうことがあるからです【図39】。





また、逆に手前側の方は削っても大丈夫なので、ある程度しっかりとモルティス内にくさびが収まったら、しっぽ部分の入りきらない分はチップの高さまで平らに削ります。





くさびの形を整えたら、弓に再びフロッグを装着します。
そのまま弓をある程度の強さまで張り、毛を指でばらばらと弾いてみて、極端に長さの異なる毛や切れ毛などを探し出し、乾かす際に邪魔にならないよう短くカットしておきます。
その後、スティックを保護するため毛とスティックの間に下敷きなどを挟み、ドライヤーの温風でじっくりと乾かします。
ある程度毛が乾燥したら、毛を緩めて長さやばらつきなどの状態を確認し、変なちぢれ方をしている毛や伸びすぎている毛などをカットします。
この際、根元に短い毛が残っていると、その部分だけ妙な隙間が空いたり、毛が薄く見えたりすることがあるため、フェルールのくさび側の毛の根元までしっかりカットし、残り毛を除去しておくことが非常に大切です。
また、悪い毛だからとあまりに何本もカットしすぎると、全体的に毛の量が減るほか、フェルールやヘッドなどのくさびが緩みやすくなるので、注意が必要です。
そのほか、お店によってはアルコールランプなどばらついた毛や長い毛を炙って縮めることがありますが、これは毛が変質してしまうほか、スティックのニスが溶け出したり、焦げたりする恐れがあるので、当店では行わないようにしております。

以上が、当店における毛替えの全工程となります!
しかし、工房内でも職人によってこだわるポイントが異なっていたり、細かな技法が微妙に異なっていたりするため、今回ご紹介させて頂いた手法に関しましては、あくまでも工程の流れを把握する上での目安程度にお考え頂けたらと思います。
もしも文面の中で、気に掛かる点や疑問に感じられた点などございましたら、是非ご遠慮なくお問い合わせ下さいませ!