2007.9.10
店内改装の準備で片付けをしていたら 懐かしいものが色々出てきました。 20年ほど前のダリオダティーリやチャールズベアーと取り交わした 書簡や領収書等・・・ 当時楽器の鑑定で有名だったのは イギリスではJ&A Beare(ジョンアーサーベアー)の CharlesBeare(チャールズベアー) アメリカではdario D'Attili(ダリオダティーリ)でした。
チャールズベアーとはオークションのプレビューで知り合い 私は彼から楽器をよく買いました。 彼から買う楽器は高いものばかりでしたので それぞれが売れるまでに2~3年ほどかかりましたが 非常に勉強になりました。
数年の間ほとんど毎日見続けていると 楽器が売れてしまった後でも その楽器のイメージが消えることはありませんでした。
鑑定書を書いてもらう時や楽器の真贋をみて欲しい時に ロンドンの彼の店J&A Beareにはよく行きましたが 私がオークションで落札したノーラベルの楽器を持ち込み 「この楽器の製作者は誰か?」とCharlesBeareに訊ねると それには答えずに奥から1本の楽器を取り出してきて その楽器の説明を始めます。そして最後にあなたの楽器は私の この楽器と同じものだと言いました。
彼はわからない楽器はわからないとハッキリいいます。 ヨーロッパはバカンスがとても長く盗難防止のために 高価な楽器はバカンス期間中、皆 楽器店に預けに来ますから その間ガルネリやストラドの本物を毎日見れるわけです。 日本に住んでいる私からすると鑑定眼を磨くためには たいへん恵まれた環境だと言えるでしょう。
彼から買う楽器は高かったと前述しましたが 値段の高い理由を私なりに考えてみました。
オークションで買った場合は国籍等関係ないのですが それ以外で買った場合日本人と言うよりも ヨーロッパ以外の人だと高くなりがちです。
ヨーロッパに売った場合は数年後に買い替えなどで その楽器が又戻ってくる可能性がありますので 1本の楽器で何回もビジネスが出来ますが 日本人に売った楽器は戻ってくる可能性は ほとんど無く1回きりのビジネスになるから 高いのだと思います。
次にdario D'Attiliについて記します。
20数年前にポールチャイルズに連れられてAntonius Stradivarius の真贋を見極めてもらうために、ニュージャージーの dario D'Attiliの自宅を訪れたのが彼との最初の出会いでした。
バセドー氏病を患っていた彼は私の顔を見るなり 「君もバセドー氏病なのか?」と私に訊ねて来ました。
「目が出ているのは生まれつきだ」と私が答えると 彼はそれは良かったと言いながらチョット残念そうな 複雑な表情をしました。
ちなみにその時私が持ち込んだ Antonius Stradivarius は本物でした。 ダリオはラファンの楽器版という感じで 独立して楽器の修理と鑑定をこなしていました。
彼は常々こう言っていました 楽器は人工的な明かりで見てはいけない 太陽光の下で見てはじめて価値がわかるんだと 彼は太陽を求めてニュージャージーからカリフォルニアに 移り住みましたが後年、バセドー氏病が進行して 右手が利かなくなるとやがて修理が出来なくなり 最終的には鑑定書のサインも奥様が 代筆されていたと聞きました。
彼との親交も長いものになりましたが 3年ほど前に彼が亡くなったことを伝える訃報が私のもとに届きました…合掌