第三章
イギリスのオークション会場でハイルヒットラーと呼ばれるようになってから5年程経過したある日サザビーズのオークション会場に私が居ると、ポールチャイルズが1人の白人男性を私の前に連れて来ました。
私と同年輩で眼鏡をかけており非常に真面目な印象の彼は口を開いた。
『私はフランスのベルナルドミランの工房で修行をしていたが今回独立して自分の店を持ち弓の修理や鑑定をしている、フランスに立ち寄った際には是非私の工房に遊びに来てくれ。』
と言いながら私に名刺を手渡した。 J,F,RAFFINと書かれている。
知らない名前だな[ラフィン?ラファン?]
彼が立ち去った後にポールに訪ねると、彼の名はラファンでイギリスのオークションに出品もしなければ落札もしないただ弓の相場を調べに来ていると、、、
彼こそはミランの後継者でじきに彼の時代が訪れるであろうと言う。
その出来事から数ヵ月後フランスのバーテルの店に楽器を見に行った帰りにバーテルの店から10軒ほど離れた所にJ,F,RAFFINと書かれている看板を見つけ、ここが彼の店かと思いつつ店内に入ると、そこは10数坪と非常に狭く、ラファンの他にタイプライターを打つ女性が1人と弟子が3人という状況でした。
ポールの言っていた、彼の時代はまだ遠いようだな、などと思っていると私を見つけたラファンが私の元に駆け寄りそこに居る皆にサザビーズの名物男がやって来たと紹介してくれ大歓迎してくれました。
ラファンは当時販売にはまったく力を入れておらず、あくまで私は職人だからと、弓の修理に全力を注いでいたので私が彼の店で楽器や弓を買うわけではないのですが。
その日から私はフランスに滞在中は足しげくラファンの店に通うようになりました。
そのわけはラファンに対する好奇心からです。
彼は幼少時からずっと経済的に苦労していたせいか、フランス人としてはめったに居ないタイプの男でした。
彼はフランスの歴史や文化を鼻にかけて他国の者を見下すようなこともなく、英語力、社交性抜群で、何より勤勉です。
普通フランス人は真面目に仕事をするイメージは無いのですが、彼は朝7時頃すでに店に出ているし夜の7時頃にもまだ店で仕事をしています。
その後彼の時代がやってきましたが普通、彼クラスになると16時に店に出て18時に帰宅したりしてもおかしくないのですが、彼の勤勉さに変化はありませんでした。
彼に聞いてみると、平日は仕事のことしか考えず、土日は仕事のことは一切考えないようにしているのだといいます。
閉店後はよく一緒に食事に行くようになりました。
彼は大酒飲みの大食漢でワインを水のように飲み、ずっと食べ続けている印象です。おそらく食べ物の好き嫌いは無いでしょう。
夜の8時頃から飲み始めて深夜2時頃に解散しても翌日と言うより当日の朝7時にはちゃんと店に出ています。
冗談を言わないポールチャイルズとは真逆で、冗談しか言わないような明るい男です!
商売っ気もまるでありません!
そんなラファンに私は親愛の情を感じています!
----つづく